星影にひそむ星々の会話~星座の文法~

精神障害者ピアサポーターをしている僕の徒然

眩暈

そよ風が吹いている。

少し生暖かい。

悪い報せは今のところ届かない。さりとて佳い報せがある訳でもない。

病気なのかもしれない。グラスを傾けながら、なんとなくそう思った。

私は生きているのだろうか、彼女はそう思考を続けたが、漠然としていて、とりとめもなく迷っている。もしかしたら私は死んでいるのかもしれない。生きた心地がしない。そんな日々がぼんやりと続く。馬鹿な友達なら無数にいる。地球儀をグルリと回す癖が小学生のときから消えない。最果ての北が頂点になっていて、そこから覗き込むいつもに、軽い眩暈を感じる。疲れているときにはいつも溜息で地球儀に熱い息を吹きかける。それで幻滅してしまう。私は…続く思考の次を待つ。友達という重宝な牧歌的な響きに、ちょっと飽き飽きしているのは珍しい嘘ではない。弱々しい風にもう倦んだ。

 

この国では、そう感じつゝ地球儀に想いや願いを託す。この国ではどんな風が吹いているのかなぁ。小さい国もあれば、大きい国もある。小さい国になると首都の記載さえされていない。それでも風は吹いている筈だと彼女は見当をつける。激しい風なのかもしれない。首都の人々が混乱するような。その首都に行ってみたい。なにもかもが混乱し、あたかもテルミドールの熱い月が天空を横切り、その中で私はヒロインになるのかもしれない。無造作にそう夢想して、やっぱり病気かなぁ、と思うと顔が歪むのを感じる。

 

夏休みだ。休暇をとった彼女の目論見は叶わないままに時間だけが経つ。せめてボーイフレンドを獲得したいと恋活しているのだけれど、そうそうなかなか巧くはいかない。無料だった筈の出会い系サイトから法外な請求書が届く。弁護士をたてることもしない。彼女は狼狽えてサイトに金を振り込んだ。そうしなければ悪いような気がしたからだ。馬鹿なみたい。またグラスを傾けた。

 

手首には夥しい傷痕がある。華奢な手だ。細っそりと白い手がかつては秘かな自慢だった。自慢は跡形もなく羞恥に転じている。私は病気なのに違いない。

 

孤独と孤独感を行き来する。絶望だけはまだしたくない。洗面器に水を湛えた。私の顔がなくなっている。キッチンのシンクに鮮血が飛び散った。ゆっくり笑顔になる私は、自分の顔を漸く見出す。