読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

星影にひそむ星々の会話~星座の文法~

精神障害者ピアサポートをしている僕の徒然

タトゥー、グロス、ベッドの外のキス

そんなに熱くもないキスを私はごくありきたりに終わらせた。TVの陳腐なドラマが「フツー」と呼んでいる、そういうキスだった。私はちょっと有名な「フツー」の大学で理学を学んでいる。芸術学部にほんとうは籍を置くつもりだったが、法学部と理工学部を受験して、後腐れしない理系のほうが佳いと感じ、祖母の反対を押し切って理工学部に籍を置いた。浪人して国立大学に行く手もあったが、時間とお金が勿体ないから、現役でフツーの私立大学へ進学した。文系と理系の双方の学部を受験しても結局は共に合格してしまう、これじゃぁ就職の時に企業からフィルターを掛けられても仕方ない、そんな退屈な大学に過ぎなかった。だが中には浪人して入ってくる学生もかなりいたし、理工学部にのみ的を絞ってわざわざ入ってくる文学音痴みたいな学生も沢山いた。入学式を終えて項垂れている私に、声を掛けてきたのが所謂「附属上がり」の、陽気で洒落たセンス溢れる男の子たちだった。「外部?」なかの一人がそう言った。「なぁに、それ?」私は北関東特有のイントネーションで応える。小首を傾げた女の子みたいな仕種をする彼は「だね?」と少し微笑んだ。嫌みの全くないその微笑みは、恥ずかしそうな笑みだったから、私は驚いた。「内部、なの? あなた?」そう私は目を丸くして訊いた。そう問いながら私は彼が東京の高校出身であることをなんだか祈った。「うん」花のように彼は笑った。「後輩に、女優がいて・・・」どこまでも女性的なこの男の子をついつい私は「欲しい」と感じてしまう。咄嗟に周囲を見回した。ライバルをチェック。「学部は?」強引のようだが私は訊かずにはいられない。「うん、法学部」相変わらず女の子みたいに花のように笑う彼、絶望する私は青ざめた。

 

「抱いてくれないの?」あの彼はもういない。私の前にいるのはバイト先の店長。「困るんだよな。タトゥーは、禁止なのに」この店長、気持ち悪い臭いのオーデコロンをいつもつけている。「誰が決めたの、禁止って?」苛々した私はTVを消した。「法律だよ」

私は店長を蹴飛ばした「やめてくれない? 野暮な冗談、言うんじゃないよ」すると店長は無理矢理キスしてきた。生臭い舌を私の口の中に入れてきた。アルコールの残骸が入ってくる。なにもかも男性的なそのやり口に私は嘔吐しそうだった。

 

偶々、あの彼を見た。女優と歩いている彼は、女優にしか見えない。私は、馬鹿だ。

 

チークは、このローズが佳い。グロスは、防備と美貌のため、あ、つけすぎないように注意。あくまでも、あくまでも、Leolaのように。好き? 嫌い? 大好き? 届けたいの、ただね、ただ、届けたいの。はじめて声を掛けてくれたあなたが、素敵で、好きで、大好きで、私、なんにも祈らず自分の過去にだけ祈ってる。自分の過去以外に決して祈らないのが、不器用な私の誠実さだから。ここに、ここに来て。ベッドの中に来て。タトゥーに、優しく、触れてみて。この花柄のタトゥーに。笑ってるみたい。笑ってるみたい。素直になって、私、告白したい。たとえ夢が破れても、愛の証しが傷に残ればそれはそれで幸せだから。ずっと、私、傷を見つめて見守るから。